dadalizerの読書感想文

読んだ本の感想(誤謬アリ)を綴るブログ。オナニープレイ。

マッドジャーマンズ ドイツ移民物語:ヴィルギット・ヴァイエ=著/山口侑紀=訳

学友から借りた本を読む。

私はとかく歴史と地理と数学と古典に疎いので、モザンビークに焦点を当てた本と言われてもイマイチよくわかってなかった。内戦があったと言われてもまだよくわからず「そういえばMGSで聞いたなぁ」という程度で、自分の住んでいる場所すらわからないレッドネックを笑えない認識力なわけで。

しかし、語弊を恐れずに書けばこの本は最低限の「モザンビークでは内戦があった」ことを理解していれば読める。なぜなら「この世界の片隅に」と同じ話だからだ。

もちろん、国が違えば事情も異なるわけで。フィクションとはいえ明らかにモデルとなった人物がいることを思わせるキャラクターの境遇はやはり日本人であり日本人として日本で暮らしていたすずさんとはかなり違う。黒人であることなんかは、特に。

 

ジョゼ、バジリオ、アナベラの3人のキャラクターのナラティブとして、1981年当時内戦によってドイツに出稼ぎにでなければならなくなった過去の回想が語られる形式になっている。

真面目だったり軟派だったり、恋仲でもイデオロギーが違っていたり、同じ国・同じ人種でも出身が違うことで決定的な決裂を生んでしまったり、ということがそれぞれの視点から章立てされて語られる。

下手にごちゃごちゃと行ったり来たりする構成でないから読みやすいし、ある人物のナラティブを読んだ後に別の人物のナラティブを読むことで「ああ、こういう事情があったんだ」とわかる。

そういう、あくまで個人の話。

まあ読んでいて思ったのは、当時のドイツ(というかモザンビーク政府もだけど)がマッドジャーマンズに対してやっていたことが、日本が今、外国人労働者に対して行っていることと大差ないということだ。いやほんと、大げさでなく。

 

また、単純にコミックの表現としても面白いものがある。

コミックではあるんだけれど、いわゆるアメコミとか日本の漫画とはかなり異なっていて独特な雰囲気がある。

コマ割りとかはすごく単純なんだけど、柄や模様、背景や風景といった、なんというか人以外のおよそほとんどのものが――こういう書き方が正しいかどうかわからないが――アニミズム的であるというか、表現主義的であるのですね。

基本的に、マンガにおける背景とか小道具みたいなものっていうのはパースとかを考えたりして一種のシミュレートを行ったうえで模写をするようなものなのだと思うんだけど、この本ではそういう「正しく描く」ということよりもモノの息吹を描くことを最優先している。

絵柄そのものは、ボールペンで書いたような線だったりするのだけれど、そういう意味では絵本に近い絵柄と言っていいかも。

たとえば、空気や雪の表現に指紋を使っているところなんかは、そういう発想がなかったから素直に驚いた。あとは版画のような絵を心理描写や表現のために丸々一ページ使っていたりするのだけれど、それがあまりこれ見よがしでないというか、作画そのものが空気といったもので統一性をもって描かれているために大ゴマでのキメであるにもかかわらず突発感はあっても唐突感はないというか。

 

 

いや、中々面白いコミックでした。