dadalizerの読書感想文

読んだ本の感想(誤謬アリ)を綴るブログ。オナニープレイ。

ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド:ブライアン・W・オールディス(柳下毅一郎 訳)

お久しぶりんこ。
そろそろ読書感想を書くのが苦痛になってきております。
もとより読書にはかなりのエネルギーを使う上に読むのが下手くそだし。最近は色々とあって、本を読むタイミングもなかったこともあって、読書週間を取り戻すのが大変ですた。
それに、すでに読み終わって途中まで書いていたものも放置している状態で、完全に進研ゼミのダメパターンに入ってきている。や、別に何かに追われているというわけではないのですが・・・。寿命に追われている、ということは言えるかもしれませんが、それを言ってしまうとほかのすべてに当てはまることだしなぁ。
しかし、今回取り上げる本は軽いノリで(訳者の柳下氏も指摘している通り)ページも少ない文庫本ということもあって読書週間を取り戻すにはかなり手ごろでした。
まあ、軽く書かれているからといって必ずしも内容が軽いというわけではなく、まして出来栄えが悪いというわけでもない、というのが才人の才人たる所以なのでしょう。
オールディスの小説はこれが初めてなのですが・・・とか色々書き綴ろうとも思ったのですが、そういうことをダラダラと書いているから余計に面倒なことになるのだろうと書きながら思い直し、すぐに本題へと行きましょう。一応、スピルバーグの「AI」の原作者、と書いておけばそれなりに伝わるかしら。


以下、文庫本裏表紙に記載のあらすじ

英国北部の僻地、レストレンジ半島(ヘッド)に生まれ育ったトムとバリーは、結合双生児。さらにバリーの方には第三の頭が生えていた。
二人を待ち受けていたものは、ロックスターとしての世界的な成功と、運命の女性ローラとの邂逅。
だが、離れることのできない兄弟は互いにに組合、争いは絶えない。その果てに……巨匠オールディスが円熟期に発表した名編。

あらすじからもわかるように、フリークスの話です。
前書きを含め8つのチャプターで構成されているわけですが、それぞれのチャプターではトムとバリーの関係者の一人称形式あるいはインタビューという形で物語られていよる。
この構成の妙というのは、つまるところトムとバリーの当事者の視点を入れない部分にあり、結局のところ彼らの理解には至らないということろだと思います。もちろん、兄弟に最も近しい存在である姉のロバータの記述においてトムの見た夢が語られていたり、恋人(?)であるローラの語りもトムとバリーの関係性や人間性を陳述してもいるわけですが。
トムとバリーの理解に至らないということはイコールでソレの存在を隠匿することにも繋がる。もし、トムとバリーの内心を一人称で描こうものなら、どうしたってソレの存在は無視できなくなるだろう。とりわけ、フリークスである彼らを描くにあたってはその身体性からは逃れられないだろうから。そういう意味では、フリークスの悲哀というのは伝わりづらいかもしれない。とはいえ、関係者から語られる兄弟の懊悩は真に迫るものはあるし、決して伝わらないということではない。しかし、なぜそんな構成にしたのか。
結局のところ本人たちの内心を描かないという選択をしたのは、最後の数ページの展開のためにあるのでしょう。その展開に至るまでに、予兆は散見できる。どころかあらすじの中にすでにその布石が置いてあるわけですね。
しかし、これが上手に機能するのはやはり視覚のメディアではないからでしょうな。だって、これがもし視覚メディアであれば(いやまあ、映像化しているわけなんですが)トムとバリーを映した時点でソレは強烈に存在感を放ち続け、本書のように「フリークスの悲哀とかの色々な物語がホラーに転じる」という急転直下(それでいて唐突な展開ではないという技巧)なセンスオブワンダーは描出できないだろう。
ところどころで挿入される挿絵も、うまい具合に予兆を放ちつつもソレの存在感を薄めている。

他者によってトムとバリーを語らせることにより、トムとバリーのへの理解の程度を徹底して一定未満に保つことで、ソレの理解を拒ませる。だからこそ最後のあの展開は背筋が凍るものになるわけです。そしてまた、ある種の憐憫も。

基本的にはトムとバリーの話ではあるのだけれど、個人的に一番グッとくるものがあるのはローラの寄稿だったりする、というのが我ながらどうしようもないなぁ、と思う。
まあね、彼女のチャプターは読んでいてうんうん頷いたり自分の恥部をつつかれているようであったり、一方で彼女の語りそのものにほろりとしてしまうところがあったり、すごくエモい。でもやっぱり、どこか自虐的だったりシニカルな軽さもあってすごい読みやすいんですよね。

ああそれと、イアン・ポロックのイラストもすごい良いです。この悪意マシマシで描かれる人間というのがもうこの本に適している。まあ、一部の好事家に支持されるだけでは金はそこまでついてこなかったらしいですが、こういうイラスト増えてくれるといいなぁ。
もとはカラーイラスト付きの大型本だったということで、ちょっと元の方も読みたい欲望が。

軽く読める良作でしたよ、ええ。
次は同じ著者のスカトロSFを読んでみたいでせう。