dadalizerの読書感想文

読んだ本の感想(誤謬アリ)を綴るブログ。オナニープレイ。

ジャンキオン=バロウズ

 誰がわかるんだこのパッチワークタイトル。
 わかってくれた人は間違いなくギーク&ナードの複合ですので社会不適合者の可能性がアリ。

 どうでもいい(どうでもよくない)ことなんですが、本当に本を読むスピードが遅いのが嫌になります。それ以上に、本を読むのってかなりの能動性と集中力と体力を要するので手を付けることそのものが割とハードルが高いのである。
 そんなわけで、文庫で300ページもないウィリアム・バロウズ著「ジャンキー(鮎川信夫訳)」の読了に一ヶ月要することに。どうでもいいけど予測変換で出てきた雀鬼ってかっこいいですね。
 20世紀アメリカ文学界に名を刻んだ鬼才の処女作ということらしいのですが、わたくしは「裸のランチ」のタイトルだけは知っていながらバロウズの本は一冊も読んだことがなかった。というか、ほかの有名どころの著作だって読んだことないのですが。
 で、どうだったか。うーん、この作品を評価する場合は出版当時の時代背景を考慮してタブーを赤裸々に綴った挑戦的な作品という前提を知っておかないといけないのでしょうが、今この時代に読んだ身としてどうかというと、別にそこまでという感じ。
 ほとんどジャンキー(回復不能麻薬常用者)の自伝ではあるのですが、自伝ゆえに映画のような物語的な展開とかは別に面白いものはなかったりする。ていうか体験談の羅列のようなもので物語とかそもそもあってないようなものでしょう。アングラーの体験記というか手記のようなもの。タイトルどおりのジャンキー描写。淡々としたトーンで麻薬の使用による中毒と回復を延々と繰り返していくだけなので、後半に進むにつれてどんどんマンネリになっていくのは拭えない。もちろん、その煉獄感こそジャンキーがジャンキーたる所以なので、繰り返しの日々を描くとなると必然的この構造になってしまうのだろうけれど。
 もちろん、同じことの繰り返しとはいっても細部は違う(使っている麻薬が違うので症状が違ったり、禁断症状だとか色々)。が、読む人によってはだからどうしたという以外の感想はでてこない。お母さんにとってウルトラマンが同じ顔に見えたりガンダムの違いがわからないのと同じで。自分も割とそんな感じだったりする。
 それでも、さすがは鬼才というべきか端々に自分のツボをついてくる表現がある。わたくし、小説に関しては物語そのものより表現の技巧とか美麗さを愛でるタイプですからね、基本。
 『彼の顔は、その目とは無関係な苦悩にくまどられていた。それは彼の細胞だけの苦悩だった。彼自身――そのどんよりとした、油断のない冷静なごろつきの目からのぞいている意識的な自我――にとっては、この打ち捨てられたもう一人の彼自身の苦悩、肉と内蔵と細胞の神経系統の苦悩は少しもあずかり知らぬところなのだ。』
 こことか、肉体と自我意識の解離描写がすごい絶妙。あとちょっと肉体に対して無責任な感じも言い訳がましくてすごい好きです。
 『女に冷淡なのを見てホモだと思い込んだ青年が、実際はホモなどではなく、単にセックス全体に対して無関心であるにすぎないとあとでわかることがよくあるのだ
 これもすごい些細な文章ですが、シニカルな文体と相まって笑みこぼれます。十中八九、バロウズ本人の経験談だろうし。
 『死は生の欠如』っていう短いフレーズも、死があくまで主体になっている表現でシニカルでニヒルでダダイスティックなジャンキーらしい一文だと思います。や、原文知らんのですけど。

 それ以外だと注釈ギャグがボケ突っ込みみたいで面白い。個人的に注釈の文字はキートン山田で脳内再生された。
 『わたしは麻薬に親しんだことを後悔したことは一度もない。ときどき麻薬を使ったためにいまでは常用者にならなかった場合の自分よりも健康になっていると思う。人間は成長が止まるとともに死にはじめる。麻薬常用者はけっして成長を停止しない。たいていの常用者は周期的に麻薬の習慣をやめるが、それとともに肉体組織の収縮と麻薬依存細胞の交替が起こる〔原著編註―これは医学専門家の見解ではない〕。』とか、バロウズの無知(というかアファメーション的願望かしら)に対する無慈悲な突っ込みとかが散見できて楽しい。
 正直なところ、あまり話は頭に入ってこなかったんですけど、ジャンキーってどうやって金を工面しているのかもうちょっと知りたいという欲求はあったり。
 
 ぶっちゃけた話、単純に読んでいて面白いという意味では本文よりも解説とあとがきのほうが面白い。
 訳者は『接した人々等はすこぶる多種多彩で~』なんて書いているが、これって皮肉じゃないのか(笑)
 解説にある「はずみとはいえ妻(バロウズは同性愛者ですが)を射殺した直後に書き始められた」という文章も色々と境遇を考えるとホロリ。原著には巻末にジャンキー俗語用語集がついているらしいので、正直日本版もそれ訳してほしかったりするんですが、まあ今なら割と簡単に手に入りそうだし機会があれば自分で買うか。

「覚書」

 ジャンク・ホッグ:人一倍多量の麻薬を使う常用者。一日に5グレイン以上使うと、この暮らすに入る事になる
 しまいこむ:自分の麻薬を用心深く隠すこと
 お蔵を開けてやる:ほかのジャンキーが隠している麻薬を失敬すること
 お前の背中には老いぼれザルがしがみついているんだろう?:麻薬を常用しているのだろう?
 ズート型の服装:肩幅の広い長い上着とだぶだぶですその狭い長いズボンからなる服装
 ポット:ヒッピー用語。マリファナの意
 ツイステッド:同上。ダメになること
 クール:同上なんでも好ましいことや、警察の目を引く危険性がない状態を意味する万能語。反意語にアンクールがある。